2018年10月21日日曜日

築地市場廃止・解体問題など。熊本一規先生のブログから

〇築地市場廃止・解体問題(東京都)
東京都が築地市場を閉鎖し、豊洲に移転させようとしている問題です
築地市場の仲卸業者の方たちは、その多くが移転に反対の意向であると聞きますが、なぜ移転することになっているのでしょうか。

築地市場の豊洲移転に関しては、1998年12月に東京魚市場卸協同組合(略称「東卸」)の臨時総代会において「現在地(築地)再整備」が可決されたものの、2014年11月14日の東卸総代会において当時の伊藤淳一理事長が、1998年12月の臨時総代会の決議について「私のほうから白紙の宣言をさせていただく」と宣し、それが拍手で承認されたことが豊洲移転の法的根拠とされています(詳しくは週刊金曜日2018年1月26日号掲載の永尾俊彦氏の論文を参照)。
白紙宣言がなぜ移転の根拠になるかわけがわかりませんが、そもそも、事業を営んでいるのは仲卸業者の方たちであるのに、なぜ東卸が移転を決められるのでしょうか。
これは、漁業を営んでいるのは組合員であるのに漁協が埋立やダム建設に同意している問題(上関原発の事例を参照)と全く同じで、組合の決議がゴマカシに利用されているのです。40年余り埋立と漁業権について研究してきた私には、そのゴマカシがピンとくるのです。永尾俊彦氏も、川辺川ダムや諌早湾や大入島埋立等で私と漁民との勉強会に参加され、また拙著を読んでくださっているので、ゴマカシに気づかれ、私にコメントを求めてこられたのでした。

週刊金曜日の記事を見た共産党都議団の方たちが、私に連絡をとってこられ、2月13日に勉強会を持ちました。都議会で質問してくださることになり、その後、
質問結果の連絡が来るのを心待ちにしていましたが、なかなか来ないので連絡を取ったところ、質問前に都に説明を求めたところ「仲卸業者は借地権を持たない。
都営住宅の入居者と同じようなもの」との説明を受けたために質問をあきらめたとのことでした。
しかし、仮に仲卸業者が借地権を持たないとしても、「東卸が何らかの権利を持っていて、総代会決議で移転を決められる」はずはありません。権利を持っているのは、事業を営んでいる仲卸業者に違いありません。また、東卸の総代会決議を根拠にして誤魔化しているということは、仲卸業者が何らかの権利を持っているからに違いありません。

そのような視点から、仲卸業者の持つ権利を検討して、「営業権」という概念に行きあたりました。「営業権」とは、行政庁の許可を受けて営業していたり、長年の営業により暖簾を得て営業していたりする事業者の持つ財産権です。築地の仲卸業者は、都知事の許可を受けていますから、それだけで「営業権」を持つことになります。そのうえ、「築地市場」は、いまや世界的に有名なブランド(暖簾)ですから、その点に基づいても「営業権」を持っていることになります。

とすれば、築地市場の豊洲移転は、築地市場仲卸業者の方たちの持つ「営業権」を侵害します。財産権の侵害にあたっては、その権利者からの同意を得、かつ権利者の受ける損失を補償しなければなりません。
しかし、東京都は、仲卸業者の方たちに「営業権」や「財産権の侵害」の話を一切していません。それどころか、仲卸業者の方たちとの話合いを拒み、東卸との交渉だけで移転を進めています。これは明らかに財産権の侵害に当たり、財産権を保障した憲法29条に違反する行為です。

5月29日に築地厚生会館で開かれた仲卸業者の方たちの勉強会でのレジュメと資料を次に掲載します。仲卸業者の方たち各自が営業権を持っていること、及び都と東卸がそれを誤魔化して営業権を侵害してきたことが分かると思います。

5月29日勉強会レジュメ(2018.1.26)
5月29日勉強会資料
(原文ではリンク有り)

ルポライターの永尾俊彦氏が5月29日勉強会の概要を週刊金曜日(2018.6.8)に掲載してくださいました。
週刊金曜日(2018.6.8)
・築地仲卸業者の取組みについては、次のホームページを参照してください。
築地女将さん会のホームページ
・築地女将さん会のホームページお知らせ欄(6月6日)にとても光栄な勉強会の感想を掲載してくださいました。感謝の気持ちを込めつつ紹介します。


・仲卸業者の方々の取組みは迅速かつ素晴らしいです。早速、規約を作り築地市場営業権組合を結成されました。6月21日15時より都庁記者クラブで記者会見です。

・6月21日15時より都庁記者クラブで営業権組合の記者会見が開かれました。自分の権利に基づいて闘えることがわかった仲卸業者の方たちが熱心に発言されたことが印象的でした。質問の数も従来の記者会見よりも2,3倍多かったとのことです。当日の配布資料(規約・公開質問状等)を次に掲げます。公開質問状は7月6日までの回答を要求しています。
6月21日記者会見配布資料
記者会見の模様は、次のサイトで見ることができます。
YouTube:築地仲卸業者の営業権新組合発足

・6月27日、市民報道クミチャンネルに営業権のことやこれまでの私の取組みに関する動画を撮っていただきました。次のサイトに掲載されています。
YouTube:築地仲卸業者の営業権について

・営業権組合結成企画第一弾として7月7日(土)と7月10日(火)に連続学習会が企画されました。その案内チラシと会場地図を掲載します。
   チラシ表
   チラシ裏
   会場地図
(原文ではリンク有り)

・7月21日(土)に学習会が企画されました、12:30から、場所は講堂(上記会場地図参照)です。

・7月21日学習会では、営業権の侵害に伴う補償について具体的な質問が出て、詳しい説明を行ないました。
席上、村木営業権組合共同代表から、「組合員が100名を突破した」との報告がなされました。また、営業権組合は、仲卸業者など営業権を持つ人たちを核と
するとともに、『公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱』に基づいて交渉がなされるよう求めていくことも確認されました。今後、組合員加入が加速することが期待されます。
当日のチラシを下に掲げます。疑問に答える形でわかりやすく、かつ法的にも正確に書かれた大変優れたチラシです(チラシ裏にご注目!)。

第3回学習会チラシ表
第3回学習会チラシ裏
(原文ではリンク有り)

・公共事業に伴う損失補償基準としては、通常「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年閣議決定)が適用されるのですが、築地市場の豊洲移転は既に公共用地として利用されている土地における事業のため、別の「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」(昭和42年閣議決定)のほうが適用になります。
国(国交省)は、公共事業を実施する都道府県等に対して、両要綱に基づく「基準」をそれぞれ策定するように指導しています。
ところが、前者の要綱に基づく基準は、たいていの都道府県で既に定められていますが、後者の要綱に基づく基準は、あまり定められていません。実際、埼玉県は平成21年にようやく定めましたが、東京都は要綱制定から半世紀以上を経た今でも定めていません。
そこで、まず国交省公共用地室に「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」の解釈について、問合せをし、議論しました。その結果、豊洲移転に関する条項について私見への同意を得ることができました(8月8日)。
次いで、東京都の公共補償についての法解釈担当部局(資産運用部管理課)に問合せたところ、やはり私見に全く同意してくれました(8月10日)。ちなみに、公共補償基準が未制定なので、公共用地における公共事業では、「公共用地の取得に伴う損失補償基準(都では「東京都の公共事業の施行に伴う損失補償基準」と名付けています)」と「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」の二つを参考にするとのことでした。
これで、国及び都の法解釈担当者は、私見、すなわち「営業権の侵害について補償することなく豊洲移転を強行すれば憲法29条違反になること」に同意してくれたことになります。
豊洲移転を進めているのは、東京都中央卸売市場事業部ですが、国や都の法的見解を無視して、今後も事業を強行するのでしょうか?法治国家では許されないことです。

・8月18日、営業権組合の第1回臨時総会が開かれました。「公共事業の施行に伴う損失補償」に関する法解釈について、国(国交省公共用地室)も東京都(財産運用部管理課)も私見に同意したこと、いいかえれば、築地市場の豊洲移転が、営業権を無視して違法(憲法29条違反)に進められていることを説明しました。

・8月21日、東京都中央卸売市場事業部に豊洲移転に伴う損失補償について問い合わせました。驚いたことに、豊洲移転を担当している部署でありながら、「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」のことを全く知りませんでした。東京都が同要綱に基づく基準を定めていないためでしょう。

そこで、次の①~④を教えました。

①都では「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」に基づく「東京都の事業の施行に伴う損失補償基準」は制定しているが、「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」に基づく基準は制定していないこと
②都では公共事業に伴う損失補償については財産運用部管理課が所管していること
③財産運用部では、第一に「東京都の事業の施行に伴う損失補償基準」に基づき、それで足りないところは「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」に基づいて損失補償するとしていること
④財産運用部の法解釈は私見と全く一致していること、また国交省公共用地室も私見と一致していること

注:ただし、財産運用部管理課は、その後、何度連絡しても見解の一致した祝係長を出さなくなり、代わりに強引な福地課長を出すようになりました。
それに対し、事業部は「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」を知らなかったので、それを勉強してから回答します、ということでした。
勉強すればするほど、都資産運用部や国交省公共用地室と同様、私見と一致するはずですし、都が豊洲移転に関し、憲法29条違反を犯していることにも気づくはずです。


・9月5日、

都庁で記者会見を行ない、そこでこれまでの東京都との法律論争を報告しました。報告の際、配布したレジュメ・資料を下に紹介しますが、概要は次の通りです。

1.営業権の侵害について

・都(中央卸売市場事業部業務課)は、まず次のように答えました。

①豊洲移転に伴う経済的損失はすべて受忍限度内である。
②受忍限度内か否かは、損失額及び事業の性質(公共事業として行なうという性質)により判断する。

ちなみに、受忍限度とは、騒音、振動、悪臭等の被害について、社会生活上、被害者が受忍(我慢)しなければならない限度という意味です。
騒音、振動、悪臭等の被害が主張された場合に、被害が生じていればすべて違法性を認めるのでなく、諸事情を考慮して、被害が社会生活上受忍すべき限度を超えていると評価される場合に初めて違法性を認める法理を受忍限度論と呼びます。

・これに対し、②受忍限度の判断に「事業の性質は関係ない」と反論し、国(公共用地室)の同意も得られたので、それを伝えると、
「都の関係部局が集まって決めたのだから、すべて受忍限度内だ」とのビックリするような回答が返ってきました。
加害者が一方的に受忍限度を決められるのなら、どんな加害行為も許されることになってしまいます。暴行だってセクハラだって「受忍限度内だ」と決めれば、いくらでもできることになってしまいます。そのような、常識人なら誰もができる判断さえ都はできないのかと驚きました。これは、乱暴であるだけでなく、明らかに憲法29条(財産権は、これを侵してはならない)に反した回答です。また、騒音等はゼロにするのが不可能ですから「受忍限度論」を適用できるとしても、憲法29条で「財産権は、これを侵してはならない」とされている「財産権侵害」に騒音等と同じように「受忍限度論」を適用するのは、そもそも間違いだと思います

・しかし、そんな乱暴かつ違法な発言をせざるを得ないほど都が追い詰められたと見ることもできます。

2.築地移転に公共補償基準が適用されるか

・これは、補償の要否に関わる問題ではなく、補償する場合の基準の問題です。
私は、築地移転事業に公共補償基準が適用になると思いますが、都は適用にならないとしています。詳しくは、両者の見解を比較した別表をご覧下さい。
『公共用地補償基準の解説』から抜粋した引用文を読まれると私の見解が正しいことがおわかりになるはずです。
都の間違いは、公共事業を「用地取得を伴う事業」に限定していることに起因しています。公共補償基準は、公共事業を「土地収用法3条に列記されている事業」と定義しており、土地収用法3条は、「土地を収用し、又は使用することができる事業」として35の事業を列記しています(中央卸売市場に関連する事業は28号に含まれています)が、あくまで「土地収用等ができる事業」であって、「用地取得を伴う」ことは要件とはされていません。

・また、仮に築地移転事業に公共補償基準が適用にならないとしても、事業主体が都でないような公共事業であれば疑いの余地なく公共補償基準が適用されますが、事業主体が国であろうと都であろうと営業権者の受ける損失には変わりないのですから、少なくとも公共補償基準を準用すべき、と主張していますが、都は「所管外である」と言って逃げています。

3.認可と事業との関係

これは都(中央卸売市場事業部業務課)も知らなかったので教えてあげたことですが、農水省の認可がなされたとしても、それで事業を実施できることにはなりません。
 認可は、事業者と公との関係(公法関係)にすぎません。東京都は、事業者と公との関係において認可を得るのみならず、事業者と民との関係(私法関係)において権利者の同意を得なければ事業を実施できません。
例としては、埋立の手続きが好例です。公有水面埋立法では「埋立免許を取得しても水面権者に補償しなければ着工できない」とされています。つまり、事業者と公の関係が埋立免許を得ることでクリアできても、事業者と民との関係をクリアしなければ(権利者の同意を得なければ)事業を実施できないのです
この点を全く知らなかったことが、これまで築地事業者の営業権を都が一貫して無視してきたことの一因かもしれません。

〇農水省の法的責任と社会的責任

・農水省は、卸売市場法の認可要件を満たせば法的には認可できますが、他の法律(憲法、建築基準法等)に照らして、あるいは私法関係において明らかに違法な事業を認可すると後で社会的責任を問われることになります。埋立の手続きで、法律上は補償の前に出されることになっている埋立免許が実際には補償後に出されるのが常であることも埋立免許を出す行政庁が免許後に責任を問われることを回避しようとするからです。
・築地移転に関して、事業者(都)が「すべて受忍限度内だから損失補償は必要ないと都が決めたんだ」との乱暴かつ憲法違反の見解に基づいて事業を進めていることを農水省がどれだけ重く受け止めるか、注視していきましょう。
記者会見報告レジュメ
記者会見報告別表
(原文ではリンク有り)

・9月10日

農水省が築地移転事業を認可しました。やはり、築地移転事業ほどの巨大な利権が絡んだ事業を一官庁が止めることなどできなかったようです。
しかし、「3.認可と事業との関係」に書きましたように、認可は、「事業者と公との関係」(公法関係)にすぎません。東京都は「事業者と公との関係」において認可を得るのみならず、「事業者と民との関係」(私法関係)において権利者の同意を得なければ事業を実施できません。今まで20余りの公共事業を止めてきましたが、すべて「事業者と公との関係」でなく「事業者と民との関係」で止めてきています(拙著『漁業権とはなにか』を参照)。

代表的な例が上関原発です。上関原発で「事業者(中国電力)と公の関係」がクリアされたのは、埋立免許が出た2000年です。以後18年も経つのに、いまだに中国電力は着工できていません。祝島漁民が漁業補償金を受け取っていないからです。中国電力は、何とかして祝島漁民に補償金を受け取らせようと躍起になっていますが、上手くいかず、そのため、着工できないでいるのです(「上関原発計画」参照)。ですから、農水省の認可が出たからといって悲観することはありません。

実際、神田市場の大田市場への移転には56年もの年月がかかったようです(「かつての市場移転」https://mir.biz/2007/04/1316-4635.htmlを参照)。

上関原発の経緯や神田市場の歴史を思えば、築地市場移転の問題は、これからが本番とも言えるくらいです。  

・9月14日、

朝堂院大覚総裁の所を訪ね、築地営業権問題に関し、「営業権とはなにか」及び「営業権でなぜ工事を止められるか」についての説明の動画を撮っていただきました。総裁の正義感溢れる真っ直ぐな生き方に感銘を受けました。そんな総裁に動画を作っていただき、大変光栄に思います。
早速、動画がアップされました。次のサイトです。

築地解体を阻止するための法律を明治学院大学の教授が語る【NET TV ニュース】朝堂院大覚 築地豊洲移転 2018/09/14)


・9月16日、

茶屋の猿渡誠さんが「営業権に基づき築地に残りましょう」というビラを1500部も作り、築地市場の業者の皆さんに配布されています。猿渡さんは、30年前から毎日欠かさず、水神社の掃除をしてこられました。魚の命をいただいていることに感謝の気持ちを表わすためです。そんな敬虔な猿渡さんらしい心のこもった文書ですので、ぜひお読みください。

猿渡氏文書(原文ではリンク有り)

・9月21日、

東京都と話し合いを持ちました。
都の大谷俊也中央卸市場業務課長は、依然として前述の「豊洲移転に伴う経済的損失はすべて受忍限度内である」との乱暴な主張を繰り返しました。反論すると「自分は法律のことはよくわからないが、法律担当の課も含めて決めたんだから間違いはない」と言いながら、「では、法律担当の課も呼んで話し合いを持ちましょうよ」と言うと、逃げてしまうのです(9月21日の話合いにしても直前まで法律担当課も出ると言っておきながら、当日には来ませんでした)。これでは話になりません。

9月21日に、日頃は傲慢で上から目線の新宿都庁の3名の幹部役人(大谷業務課長、市沢拓也物流調整担当課長、小野崎浩誉業務課総括課長代理)が、何故築地市場まで足を運んだか、当日は「珍しく殊勝なことをするもんだ」と思ったのですが、後からその理由に気づきました。もしも、新宿都庁で話し合いを持っていたら、「法律担当の課も呼びなさいよ」と言われた場合に呼ばざるを得なくなるからです。どこまでも卑怯な人たちです。
9月21日の都の暴論に対する反論をまとめておきました。次のファイルを参照してください。
東京都との話合いについて(原文ではリンク有り

公共事業に伴い、建物を構外に建てる同種建物に移転させることを構外再築と言います。建物内に営業権がある場合、構外再築に際しては営業休止補償が必要とされています。営業休止補償のうち、最も大きな割合を占めるのは得意先喪失補償です。構外への移転に伴ってそれまでの得意先を失うからです。築地市場の場合、得意先喪失がいかに大きいかは業者の方々が口々に言われることですし、常識でもわかります。しかし、都は一切、営業補償を支払うことなく、豊洲移転と築地解体を強行しようとしています。明白な憲法29条違反(財産権侵害)です。詳しくは、次のレジュメを参照してください。
築地解体と得意先喪失補償(原文ではリンク有り)

・これまで都は「判例がある」とあたかも判例が都に有利であるかのような発言をしていました。「どの裁判所のいつの判例か?」と尋ねても「あなたに教える必要はない」と言ってきました。これでは根拠になるはずがありません。
そこで、私のほうで判例を調べてみたところ、見つかりました。千葉市の中央卸売市場の移転に関する判例で東京高裁平成3年7月30日判決及び原判決(地裁判決)です。移転の際に千葉市が千葉青果に出した補助金や補償金が適法かどうかを争った案件です。判決を読んでみたら、東京都に有利どころでなく、反対にすべて私の見解に有利な判決でした。その重要部分をまとめたファイル及び判決全文を以下に掲載します。
東京高裁H3.7.30判決及び原判決の重要部分
東京高裁H3.7.30判決及び原判決全文
(原文ではリンク有り)

自分に都合の悪い判決でも、あたかも有利であるかのように宣伝する東京都、「どの判例か」と私から聞かれても「あなたには教えない」とごまかす東京都には呆れるばかりです。
・10月10日、午後3時から開かれた都庁記者クラブでの記者会見における私の報告レジュメ及び資料(農水省pdfファイル)を掲載します。
10月10日記者会見報告レジュメ
10月10日記者会見資料
(原文ではリンク有り)

レジュメに記載している通り、10月1日に東京都に築地閉場・解体事業の法的根拠を尋ねましたが、10月9日16:20に電話連絡があり、まず①予算を付けた、を根拠に挙げました。しかし、「予算を付けたから法的根拠がある」とはおかしな話で、「法的根拠があって初めて予算を付けられる」のです。全く本末転倒の馬鹿げた論です(都は、一週間以上もかけて、お粗末なことにこの程度の根拠しか示し得なかったのでした)。そう反論すると、すぐに引っ込めました。このままではまずいと思ったのか、次に17:50にまた電話をかけてきて②「条例改正が10月11日に施行される」と言ってきました。わずか1時間半ほどで急ごしらえしただけに、これも話にならないほど馬鹿げた根拠です。条例は法令の範囲内でのみ制定できる(憲法94条)ため、「法令に違反した条例は無効」なのです。すなわち、卸売市場法第14条は「一般消費者及び関連事業者の利益が害されるおそれがないと認めるときでなければ中央卸売市場の廃止の認可をしてはならない」と規定していますので、関連事業者が営業を続け、一般消費者が買いに来る限り、卸売市場法第14条に反して条例で廃止すると決めても全く無効なのです。

低レベル過ぎて詳しい説明などするまでもないので、電話では「条例が無効なのは、明日の記者会見での私の報告レジュメを読めばわかる」と言って切りました。
いやしくも日本の首都なのですから、少しはまともな論を展開してほしいものです。今まで経験した都道府県の中で最低です。
しかし、都が最低なのは、批判勢力(野党、マスコミ、ひいては都民)のレベルの低さの反映でもあると思います。マスコミに取り上げられやすいせいか、デモや集会などパフォーマンスだけの運動、仲間内で気勢をあげるだけの運動が目立ちます。相手への攻撃には全くなっていません。このような東京都での運動の質を築地を契機として、少しでもレベルアップしたいものです。
ちなみに、記者会見でも言いましたが、神田市場の移転には56年もかかった理由は、営業を続けた業者が居たからに違いありません。つまり、「壊されなかったから営業できた」わけではなく、「営業を続けた業者が居たから壊せなかった(営業権の主張はしなかったようです)」のです。もしも、営業を続けている業者が居ても法的に壊せるものならば、移転に56年もかかるはずがありません。「56年かかった」は、そのことを意味しています。

・10月11日、

都が「業者の引っ越し手伝い以外の入場を認めない」と嫌がらせをするなか、予定通り築地市場買物ツアーを実施することができました。

都の西坂部長・猪口部長は、約100名のツアーの一行に一カ所以外ずっと付きまとって「営業はできません」、「営業はしていません」を壊れたレコードのように繰り返していましたが、気の毒にも無視されっぱなしでした。一カ所とは、すでに中に入って営業していた物販業者丸八さんの店でした。「営業はしていません」が嘘であることがバレるので付きまとえなかったのでしょう。どこかに隠れた理由は見え見えでした。思わず笑ってしまいました。
仲卸業者も明藤さんと山口さんが営業されて、水産物が飛ぶように売れ、完売しました。いつもより売上げが多かったに違いありません
茶屋では、皆さん、猿渡さんのとても奥の深い話に聞き入っておられました。築地市場と豊洲市場の相違点を見事に突かれているお話です。
私も、数回、法的な説明をしました。理解していただけたように感じました。
今後もツアーを続けますので、機会をみてどうぞご参加ください。

・もうおわかりでしょうが、築地問題を「築地市場移転」と捉えていては問題の本質を把握できません。本質は「豊洲市場の新設」及び「築地市場の廃止」です。
都は、従来「築地市場の業務規程変更(位置及び面積の変更)により豊洲市場になる」と説明してきましたが、「築地市場の業務規程」を変更することで「築地市場が豊洲市場に変わる」はずはありません。「築地市場at築地」が「築地市場at豊洲」に変わるだけです。この説明は、卸売市場法第14条「廃止の認可」の必要性を誤魔化すためのトリックなのです。

本質に気づくヒントになったのは、都の財産運用部管理課の福地課長が8月29日に「今回の事業の起業地は豊洲だけ。築地は含まれない」と言われたことです。
「築地市場の業務規程変更により豊洲に移転する事業なら変更前の築地も変更後の豊洲も起業地に含まれるではないか」と言ったのですが、ムキになって「豊洲だけ」と断言されました。初めに「起業地はどこですか?」と尋ねた際に、一瞬怯まれたこともまたヒントになりました。
福地発言は、公共用地補償要綱が築地問題に適用されるか否かをめぐる議論のなかで言われたのですが、実は、要綱を巡る議論の狙いはここにあったのでした。極めて貴重な発言をされた福地課長に感謝します。

・以上のようなわけで、築地問題の見出しを「築地市場移転問題」から「築地市場廃止・解体問題」に変更します。

・10月12日、

第2回築地市場買物ツアーの報告です。
とうとう都は築地市場内で営業すること、及び市民が買物をするために入場することを認めざるを得なくなりました。法的には完全勝利です。

朝8時半頃正門前に着くと、西坂啓之(東京都中央卸売市場事業支援担当)部長から、「水谷さんと先生にまず話がある」と言われました。初めは、そんな個別の話合いには応じられないと断っていたのですが、どうしても応じてくださいと請われたので、正門前に集まっていた皆さんの了承を得たうえで応じました。水谷さんに電話したら到着が一時間ほど遅れるということで、一人で西坂部長の話を聞きました。
話の内容は、食品衛生法に基づく営業許可の話でした。一枚の資料を基に、「食品衛生法に基づく営業許可が必要である」旨の話をされ、その資料を渡されました。
「今日のこちらからの要請はこれだけです。中で買物をされる方にその旨説明をしてください」ということでした。
渡された資料を下に掲載します。
食品衛生法に基づく営業許可
(原文ではリンク有り)

西坂部長の要請を了承すると、集まっていた市民全員が入場でき、第2回買物ツアーをきわめて順調に実施できました。
ツアー中は資料を熟読する余裕がないので、帰宅後、資料に目を通しました。一読して呆れました。食品衛生法に基づく営業許可は、鮮魚以外には必要なく、鮮魚も店舗でなく行商の場合には必要ありません。現在営業されている仲卸業者の中で鮮魚は山口タイさんだけなので、山口さんには自転車の荷台で売ってもらおうかなどと愚考を巡らせたのですが、仙台の東北地区水産物卸組合連合会の菅原邦昭さんから「築地の仲卸業者はすでに食品衛生法の許可は受けてますよ」という貴重なご指摘を受け、自転車も不要であることがわかりました。
不可解なのは、一体なぜ西坂部長がこんなくだらない資料を渡したかです。しかも、別れ際には「明日は正門前に集まった皆さん全員にこの説明をします」と言われていました。いくら考えてもその理由がわかりません。冗談かユーモアなのでしょうか。
ともあれ、営業すること及び買物目的で入場することに法的問題点が全くないことは今日で明確になりました。
どうぞ、安心して明日以降の買物ツアーにご参加ください。明日は、8:40開始予定、営業は9:00-11:00です。



・10月13日、

第3回築地市場買物ツアーの報告です。

1.今朝は西坂部長から正門前に集まった皆さんに「食品衛生法に基づく営業許可」の説明があるはずでしたが、実際には何の説明もありませんでした
おそらくこのホームページを覗かれて説明するのが恥ずかしくなられたのでしょう。今後は同様の愚行を重ねられないよう願いたいものです。

それにしても、なぜ「食品衛生法に基づく営業許可」を持ち出されたのか、依然として不可解です。小池知事ブレーンの小島敏郎氏(環境省OB)がツイッターで同様のことをつぶやかれた(もちろんペンネーム)ためではないかとも言われていますが、ツイッターをやらない私には真偽のほどは分かりません。

2.今日は入場にとても苦労しました。
昨日は、買物の際に「食品衛生法に基づく許可」を私が説明するとの条件だけで入場できたのに、今日は「中で営業している業者がいない」を理由に入場を拒まれたのでした。というのは、今日は明藤さんが疲労等の理由で営業を休まれたからです。山口さんや丸八は営業されていましたが、それを言っても全く効果はありませんでした。営業されていたのが店主ではなく、従業員だったからです。営業権は店主の持つ権利ですので、やむを得ません。
30分ほど押し問答を繰り返した挙句、せっかく正門前に集まられた皆さんをいつまでも待たせるわけにはいかないので、今日だけはやむを得ず「買物及び引越しの手伝い」を理由に挙げて入場しました。「引越しの手伝い」を理由に挙げれば17日までは入場できることは知っていたものの、その理由だけで入場しても「営業と買物で解体を防ぐ方針」にそぐわないので理由に挙げるのをためらっていましたが、明日以降は必ず営業権者(店主)に営業してもらうことを前提に、機転を利かせて「買物及び引越しの手伝い」を理由にしたのでした。約束通り、店からゴミ袋を持ち帰って「引越しの手伝い」をしました。
もちろん、正直にこれを書くのも、明日以降は必ず店主に営業してもらう目処が立った(ただし、営業時間は11:00-12:30に変更)からです。営業の意思のある店主は複数おられるものの、今日は打ち合わせ不十分で一人もおられなかったために苦労したわけで、店主の皆さんに強く要請して、明日以降、買物ツアーの開始時には必ず一店は店主に営業していただくように打ち合わせていただいたのでした。
しかし、以上の事実は、図らずも、店主による営業が一店さえあれば買物ツアーを実施できることが明確になったことを意味していますので、かえって「怪我の功名」になったとも言えます。

関連して、丸八では、ツアー一行が到着するまで、先回りして店を訪ねた西坂部長が「販売するな」と命令して従業員の方が困り切っておられました。そのため、私が「販売するなというのは、営業権(財産権)の侵害であり、憲法違反である。これに対する反論がない限り、買物を実行する」と言って買物を実行しました。もちろん西坂部長からは何の反論もありませんでした。

3.今までの記述から、西坂部長・猪口部長は、ずいぶんひどい人だと思われるかもしれませんが、決してそうではありません。
ひどいのは小池知事及び都の数人の最高幹部であり、両部長とも上司の方針に逆らえないのです。安倍政権下で、政治家や官僚等々に蔓延してしまったありふれた現象の一例にすぎません。責任は、小池知事及び最高幹部、さらに言えば、小池・舛添・猪瀬・石原(青島も含まれるように思います)というふうに、私利私欲に満ちた人たちを見抜けずにまんまと騙されてきた都民にあると思います。

これまでのツアーの過程で西坂部長を罵倒する人を目にしたことがありますが、その人に「人格攻撃するのはやめなさい。欝憤晴らしをしているだけで何の意味もない」と言いました。攻撃の対象は都政であり、都政に従わされている役人個人ではありません。
政策・方針をめぐって激しく対立することは当然です。しかし、そのなかでもふと相手の人間性を感じることがあります。私も対決の場面以外では、挨拶や礼儀を欠かさないように心がけています。
昨日は、築地市場を出る際などに挨拶を交わす西坂部長に人間性を感じましたが、今日は、猪口部長に人間性を感じました。というのも、入場の際に西坂部長が「記帳しなさい」と言うのに対して、「昨日記帳なしの入場を認めたので、今日も記帳なしでいいです」と言ってくれたからです(昨日は、猪口部長から記帳を要求された際に、私が「それは命令ですか、それともお願いですか」と問うて「お願いです」との回答を引き出していたのでした)。
実際に現場で闘った経験のある方ならお分かりになると思いますが、対決している相手に人間性を感じる瞬間は、とても嬉しいものです。今日は、猪口部長に人間性を感じたため、「フェアーにやっていただいて有難うございます。フェアーさが大事だと思います」とか「貴方個人を責めているわけではないですよ。ひどい都政に従わざるを得なくて貴方も大変だと思います」などの会話をすることができました。こんな会話を交わせることが、現場で闘うことの醍醐味の一つと思います。
「罪を憎んで人を憎まず」にも通じる姿勢と言えますが、この姿勢を大事にしたいものです。

・10月14日、

現在の攻防戦の焦点は撤回書です。
築地市場の業者は営業権を持っていますので、都は営業権者の同意を得なければ、建物の解体はできません。営業権者が通常の営業を続けるだけで解体を止められるのです。営業権者(財産権者)は「都が強大で自分は微々たる存在」と錯覚させられていますが、本当は「自分が強く都は弱い」のです。

ところが、この力関係は、都の書類に署名捺印することで逆転します。署名捺印は権利を放棄することを意味するからです。
築地市場の場合も、都がもろもろの書類への署名捺印を求めました。それに署名捺印しない限り、都は弱いままであり、解体事業を実施できなかったのです。
ところが、築地の運動の長い間のリーダーだった中澤誠氏が「署名捺印してもいい」と言ったために、多くの営業権者が署名捺印してしまい、力関係が逆転してしまったのでした。ちなみに、その後中澤氏は、自らの判断の過ちを一切謝罪していません。責任感のかけらでもあれば必死で集めるはずの撤回書(後述)も一通も集めていません。また、わざわざ茶屋の猿渡氏の所まで来て、前掲「猿渡氏文書」の中の撤回書集めに関する記述を削れと言ったそうです(その他にもいろいろありますが、今は時間がもったいないので、いずれまた書くことにします)。重要な局面になると、その人間の本質・正体があぶり出されるということです。言葉では誤魔化せても行動が証明します。実際に営業を続け、懸命に奮闘されている方々からは、もう誰からも信用されていません。

力関係を再逆転するために取り組んだのが、撤回書です。撤回とは、新しく発生した事情に基づいて以前の意思表示を撤回することです。築地業者の場合、豊洲市場でのカビ及び陥没の発生を知ったからという理由で「いずれ築地市場に戻る可能性を残しておきたいので私有物を残し、電気・水道も引き続き使用します」との撤回書を作りました。私有物を残しておけば、解体工事などできません。
ちなみに、豊洲市場の構造的・機能的欠陥は、今後次々に明らかになりますから、撤回書はこれからも何度でも出せます。欠陥だらけの豊洲市場を造ってくださった東京都には心からお礼申し上げます。

・10月15日

本日は、撤回書物語をお届けします。

1.撤回書物語1

10月2日、撤回書を88通集め、明藤さんと猿渡さんが築地市場内の都事務所に提出しました。何も注文を付けられることなく、受領スタンプを押して受領してくれました。
ところが、翌日、88通を明藤さんに返しに来ました。理由は「実印でないものも含まれる」、さらには「気持ちのこもっていないものも含まれる(???気持ちのこもった文書とやらを見せてほしいものです)」というものでした。人のいい明藤さんはそれを受け取ってしまわれました。
その後、前から実印だったものと新しく実印を押したもの、計60通を10月6日に都事務所に提出に行きました。私も同行しました。
ところが、驚いたことに受取りを拒否するのです。押し問答すること約30分以上。頑として受取を拒否します。とうとうしびれを切らして、私が「こんな子供じみた行為をして恥ずかしくないのか。受領を拒否しても、郵送すれば済むことだから、何の意味もないんだよ。こんなくだらないことで時間を潰すのはお互いにもったいな
いじゃないか。‥‥でも、おかげで、また都を攻撃する材料が増えた。どうも有難う」と言って事務所を去りました。

いかに撤回書が重要かを示すエピソ-ドですが、都のうろたえぶりは、逆に撤回書の重要さを自ら証明しているようなもので、かえって有難いくらいです。心の中ではともかく、何食わぬ顔をして素直に受け取ればいいものを、「受取り拒否」などするから重要性がバレてしまうのです。
ひどい対応でしたが、一つだけ救いがありました。それは、担当課ではないのに「行政に携わる者として、勉強したい」と言われて同席された方がおられたことでした。終了後、「勉強になりました」と言われました。役人の中にも心ある人はいるなと嬉しく思ったことでした。また、後日、その部屋にいた、ある職員の方と話す機会がありましたが、「先日は、恥ずかしいことをしてすみませんでした。あんなことは行政としてやってはいけないと思います。でも、我々は部下の立場なので、何にも言えないんです」と詫びてくれました。嬉しく拝聴しました。

2.撤回書物語2

60通もの撤回書が届いたことは都にとって大変な痛手です。私有財産には手を付けられず、もちろんアスベストを含む建物の解体などとうていできないからです。
慌てふためいた都は、私有物を残した業者に「築地市場閉場に伴う市場施設の造作等原状回復計画書の提出について」というタイトルの次のような文書を送り付けてきました。

東京都の撤回書対策文書
(原文ではリンク有り)

愚か極まりない恫喝文書です。
第一に、いたるところにゴマカシと恫喝を盛り込んでいます。
例を挙げればきりがないので、二つのの大きなゴマカシを挙げましょう。
冒頭に「条例第88条に基づき、使用指定又は使用許可を受けている市場施設」とありますが、条例第88条は次のように規定されています。

(市場施設の使用指定等)
第88条 市場内の用地、建物、設備その他の施設(以下「市場施設」という。)のうち、卸売業者、仲卸業者及び関連事業者が使用する市場施設の位置、面積、期間その他の使用条件は、知事がこれを指定する。

すなわち、前掲「東京都との話合いについて」に書いているように、88条は、仲卸業者等が営業できることを前提として、その使用条件を定めているにすぎません。
つまり、施設使用については許可でなく条件指定しかなされないのです。それを「使用指定又は使用許可を受けている市場施設」というふうに、「又は」を使って市場施設の使用に許可が必要であるかのように書くのは、ゴマカシであり、恫喝なのです。
最も大きな恫喝として、「条例違反に基づく豊洲市場での監督処分」を示唆しています。しかし、処分としては「許可の取消し」がありますが、「業者の許可の取消し」は条例28条(仲卸業者)及び第42条(関連事業者)に規定されており、取消し理由として次の四号が挙げられていますが、本件に関するような号は全くありません。
一 正当な理由がないのに第二十四条第一項の許可の通知を受けた日から一月以内に第二十六条第一項の保証金を預託しないとき。
二 正当な理由がないのに第二十四条第一項の許可の通知を受けた日から一月以内に当該仲卸しの業務を開始しないとき。
三 正当な理由がないのに引き続き一月以上その業務を休止したとき。
四 正当な理由がないのに仲卸しの業務の遂行を怠つたとき。
また、「許可の取消し」をするには、憲法31条及び行政手続法に基づき「聴聞の機会」を設け、公開で本人に弁明の機会を与えなければなりませんが、そんな機会を設ければ、都の数々の不法行為・恫喝行為等々が公の場で明らかにされますから、設けられるはずがありません。設けてくれれば有り難いのですが、都にできるはずがありません。

第二に、この書面は10月10日付けで出されていますが、
実際に業者の皆さんに届いたのは、12日(金)又は13日(土)です。営業権組合の共同代表村木さんに届いたのは13日です。ところが、書類の受付日時は「10月10日(水)から14日(日)」とされています。記入事項には、造作等を撤去する場合の「造作工事契約書及び設備契約書の写し」まで要求されており、しかも「計画書が提出されなかった場合及び提出された計画書に上記に記載の事項が網羅されていない場合には、当初の原状回復義務の免除申請が有効なものとして取り扱います」とされています。分かり易く言えば、計画書を提出しない場合及び提出されても全ての事項にわたって記載されていない場合には、撤回書を無効とし、元の署名捺印された書類を有効とするということです。
びっくりするような内容です。「撤回」という行為の法的効果を全く無視した目茶苦茶な内容です。
そのうえ、土曜日に届いた書類に記入し、「造作工事契約書及び設備契約書の写し」まで添付して翌日曜日15時までに提出しろ、というのですから、呆れ果てて絶句するほかありません。
内容のうえでも、届け出期限のうえでも、こんな目茶苦茶な書類が通用するはずがありません。おそらく、行政の出した公式文書としては、目茶苦茶さの点で史上一位に違いありません。「公序良俗に反する」あるいは「条理に反する」のひとことで片づけられるしろものです。


3.撤回書物語3
事実は小説よりも奇なり。撤回書に関しては、まだまだ予想をはるかに超えた面白い展開をします。
東京都の撤回書対策文書について、村木さんが「公序良俗に反する」と通告しようとして、14日(日)の午前9時過ぎに一度、午後3時までに一度の計二回、連絡先として記されている「中央卸売市場築地調整担当(跡地管理)」の電話番号03-3542-0325(直通)に電話されたそうです。
ところが、ビックリ仰天。電話に出た方は二度とも「担当者がいない」と言ったそうです。14日午後3時まで(午前9時から)に書類を提出しろ、提出しないと撤回書を無効にする、と書いておきながら、また異例の日曜出勤もしておきながら、「担当者がいない」とは、その無責任ぶりには唖然茫然です。
そして、14日午後3時半頃、猪口部長から村木さんに電話が入りました。
まず、届け出期限について抗議すると「村木さんは提出が遅れても受け付けます」と言ったそうです。これにも呆れますが、「公序良俗に反する」を言うと、「わかって下さいよ」と延々と泣き言を言ったそうです。
いったい何をわかって欲しいというのでしょうか。これまで散々、違法行為や恫喝を重ねてきた都の行動の何をわかって欲しいというのでしょうか。
猪口部長との電話を終えた午後3時50分頃、村木さんから電話をいただきましたが、村木さんは「泣き落としが始まりました。ということは、都はもう崖っぷちまで追い込まれたということです。ますます元気が出てきました」と大変喜んでおられました。
猪口さんも、意図されたかどうかはわかりませんが、ようやく大きな貢献をされましたね。Good job! お見事です。
村木さんは、猪口部長との電話での会話内容を15日に仲間に報告され、皆さん、大いに気勢を上げられたそうです。
さあ、いよいよ築地劇場も大団円に差し掛かりました。都の断末魔の悪あがきをタップリ味わい、楽しみましょう。

・10月16日

なんだか、ホームページではなくブログのようになってきましたが、事態が刻々動くのでやむを得ません。

1.買物ツアー第4回・第5回

買物ツアーは、15日(4回)も16日(5回)も順調に終えることができたようです。
仲卸業者は、15日は杉原さんが、16日は堀富さんが営業をされました。物販の丸八(店名なので「さん」は付けません)、茶屋の猿渡さんは、もちろん両日とも営業されました。
実際に営業されると、とても自信がつき、元気になられます。自分の持つ権利がいかに強いか、それを行使することがいかに大事かが肌でわかるからでしょう。
私は1~3回を始めから終わりまでお世話しました(3回目は終了間際に田中さんと三角ベースを楽しみました)が、「法的には完全に論破しました。あとは、皆さんが今まで通り営業されればいいだけです」と営業権者の方々に言って、4回目からは参加していません。ただ「都から何か言われて応答に困ったら電話を下さい」と言ってあり、常に携帯に出られるようにしています。実際に電話があったのは、杉原さんから「西坂部長が食品衛生法の営業許可のことを言ってきた」との電話だけでした(西坂さんは、私が居ないので安心して言ったのでしょう。よかったですね)。「干物は営業許可は要らない、と言えばいいですよ」と教えて簡単に解決しました。
5回目の堀富さんは、何の問題もなく、順調だったようです。もちろん、丸八も猿渡さんもです。
これで買物ツアーが軌道に乗ったことは間違いありません。ただ、都が18日に「閉場、電気・水の停止」と言っているので、18日を乗り越える必要はあるものの、さして難しくはないでしょう。
ちなみに、「18日に警察が来たらどうしよう」と心配されていた方が居たようなので書いておきますと、全く心配は要りません。買物ツアーに、警察が関与する余地は全くありません。営業権者が営業し、市民が買物しているだけなので、介入できるはずがありません。
もちろん、1回目(11日)には私服刑事が多数参加されていたようです。しかし、何もすることはないので、またお安くなっていますので買物してくれたに違いありません。ご協力、有難うございました。
都は、ご苦労なことに、11日に備えて、暴力団が押し掛けることを想定した武闘訓練を行なっていたそうですから、私服刑事が来たのは当然です。しかし、すぐに、ただの「営業と買物」であることがわかったはずです。2回目は買物客を装って一人だけ参加されていたので、記念写真を撮ってあげました(ちなみに、公務員が公務についているときには肖像権がないそうですので、どんどん撮ってあげて、どんどん拡散して有名にしてあげましょう。できれば役職・名前付きで)。3回目はゼロだったと思います。
警察が取り締まるべきは、むしろ、何の法的根拠もなく違法事業・違法行為を行なっている都のはずです。買物ツアーを監視する暇があったら、都のほうを監視し、取り締まるべきでしょう。警察は心強い私たちの味方です。警察の方々、しっかりしてくださいよ。
諌早湾では、2002年に漁民とともに埋立地に入って(私が入っても大丈夫と保証しました)埋立工事を止めていましたが、その際には、顔見知りになった刑事に「漁民には何の法的問題もない。詳しく説明してあげるから警察で勉強会を開きなさいよ」と再三勧めていました。残念ながら勉強会は実現しませんでしたが、本人は理解してくれていました。

2.電気・水の停止をできるはずはない

都は、18日から築地市場業者への電気・水の供給を停止すると言っています。そんな横暴なことができるのでしょうか。電気・水の供給に関しては供給事業者に供給義務が課せられています。
これは、電気・水の供給事業が公益事業として営まれているからです。そのため、電気・水は長い間、地域独占(関東地方なら東京電力、というように各地域で一社が供給を独占すること)で営まれてきました(水は今でも地域独占です)。地域独占企業は、地域独占を認められる代わりに、当然のことながら、供給義務を課せられてきました。電気も水もライフラインですから、地域独占企業に供給拒否を認めれば、人の生死に関わるからです。電力は自由化が進んできましたが、2020年発送電分離までは、東京電力等の電力会社(従来の地域独占事業者)に最終供給義務が課せられています。

では、借地人や借家人が給電を希望しているのに、地主や大家が同意しないからといって供給を停止することはできるでしょうか。
この点について、明確に回答している厚生省水道課長通知(昭和33年9月25日)があります。同通知は、多くの設問に答える形式を採っていますが、問53の問答は次の通りです。

第15条(給水義務)関係
問53 給水契約は需要者から申込があると拒むことはできないが、家主、地主の同意は不要なのか。例えば家賃の滞納で家屋明渡問題の起っている場合家主から反対がある場合は正当な理由として拒み得るか。
答 給水区域内から、工事費を添えて給水工事施行の申込があつた以上、拒み得ない。水道事業者は、給水義務があるのであって、単に家主等の反対があるからといって拒否の理由にはならないものと解する。

電気もまた水と同じく供給義務がありますので、同じことが言えるのは明らかです。
したがって、築地市場の地主である都が拒んでも、営業権者が供給を希望すれば、電気・水の供給を止めることはできません。
ましてや、公共機関たる都が、ライフラインの供給を停止するとしたら、それこそ前代未聞の大変な違法行為になります。

3.損失補償・損害賠償請求書

営業権、撤回書につづく第三弾、「損失補償・損害賠償請求書」を放ちました。
銀座に近く便利な築地から「陸の孤島・豊洲」に移転した業者は、多くの得意先を失っています。移転に伴って業者の売上げが減少する最も大きな要因です。
本来、この経済的損失に対して事業(加害行為)を行なう前に補償が必要なこと、すなわち損失補償の必要性については、すでに述べた通りですが、要点をまとめたファイルを次に再掲しておきます。
築地解体と得意先喪失補償
(原文ではリンク有り)

得意先喪失補償は事業の前にだけ必要とは限りません。事業前に得意先喪失の損失補償を受けなかった人は事業後に損害賠償として得意先喪失補償を請求できます。
営業権組合では、築地で営業を続けている方からは得意先喪失の損失補償の請求書を、また移転後、豊洲でのみ営業されている方からは得意先喪失の損害賠償請求書を集めることにしました。次に掲げます。
得意先喪失補償請求書
(原文ではリンク有り)

また、築地に置いてある私有物の中には、豊洲に移動できない物や豊洲では使えない物があります。それらに対しては、上掲の東京高裁平成3年7月30日判決で損失補償が必要とされていますので、やはり、損失補償請求書を集めることにしました。次に掲げます。
設備・備品に関する損失補償請求書
(原文ではリンク有り)

豊洲に移転した皆さんも築地で営業されている方も売上げが減少して困窮しておられますから、多くの補償請求書が集まると思います。
今回の補償請求書集めにより、業者には次の三つのグループができると思います(二つのグループにダブって属する方もおられます)。

A.築地で営業を続けるグループ
B.豊洲に移転したが、いずれ築地に戻る可能性を確保しているグループ
C.豊洲に移転し、得意先喪失の損害賠償を請求するグループ
Cグループには、A・B以外のほとんどすべての業者が属することになると思われます。

そして、今後、CからBやAへ、BからAへと移行する方が次第に増えていくでしょう。
豊洲市場の欠陥は次々に露呈していきますので、いずれは、豊洲がガラガラになり、築地が再建される。そうなることが目標ですし、充分実現性はあると思います。
ちなみに、豊洲に移転された方が廃業される場合には、どうなるでしょうか?
移転に起因して廃業される場合には、当然「営業廃止補償」が必要です。また、営業権は売買できますので売ることもできます。もちろん売る場合には、営業廃止補償は受けられません。
では、築地と豊洲の両方で営業されている方は、豊洲の営業権を売って築地での営業を続けることができるでしょうか?
当然できます。豊洲の営業権は許可に基づき、築地の営業権は暖簾に基づいているからです。現に両方で営業されている方がおられることがそれを証明しています。

豊洲の欠陥が次々に明らかになっていくので、豊洲の営業権価格は今後下っていく一方でしょう。豊洲移転で経済的に困窮されている方は、できるだけ早く豊洲を売り、築地に戻って営業されることが、経済的にはベストの方法でしょう。売るならお早めに。
他方で築地に戻ってくる業者が増えて、改築等をせざるを得なくなるでしょうから、その後、高くなった築地を売ることも可能です。

4.畏友の金言

私事にわたって恐縮ですが、私は31年間大学の教員を務めました。31年前私の就任した学部は大学のステータスを高めようとの意図で創られた新設学部で、有名教授がキラ星のごとくおられました。しかし、残念ながら、今日まで、その学問の姿勢や生き方に尊敬の念を覚えた学者は、他大学を含め、わずか2~3名しかおられません。弁護士とも100名以上知り合いましたが、信頼できる方は2名しかいません。地位や名声のある方の大部分は、お付き合いしているうちに、金や地位や名誉を欲しがって生きていることが見えてきて、最近では「地位ある人はそんなもの」と初めから思うようになっています。他方で、無名で黙々と生きてこられた方々の中に素晴らしい方を見出すことが少なくありません。築地でもそのような方に出会えたことが、関わるうえでの原動力になっています。

全く場違いの感のある、こんな私事を書いたのも、今日、一年前に知り合ったものの、もう数十年間お付き合いしてきたかのように、生き方に共鳴でき、尊敬できる畏友から、昨日ホームページに書いた中澤氏についてのコメントに関するメールをいただいたからです。畏友が中澤氏をご存知だったとは知りませんでしたが、何度か会われたり、話を聞かれたりしたことがあるとのことです。

そこには、中澤氏について、次のように書かれていました(本人のご了承を得て、主要部分を抜粋します)。
・運動の「主導権は俺にある」ことを、様々な謙遜な表現を装ったつもりながらも、恥知らずに、ぬけぬけと語る。この取り組みは、業者が主役で、最後は彼らの踏ん張りぬきこそが死命を決する、ということには気づいていない?少なくとも「反対運動の宣伝のための反対」としか考えていない(どっかの党派集会などで見聞した、ありきたりのカッコウ付け挨拶を自分もしているという「喜び」に溢れている姿に、心底、辟易したことを、つくづく思い出します)。

・「排他的」である。つまりは、自分の所属する党派に「俺が頑張ってる」姿を知ってもらいたいという欲望、あるいはヘツライが、セクショナル臭の元にある。
だから、リーダーは俺でなければならないと「顔に書いて」いる。⇒本人気づかず。
実に的を射ていると思います。私が漠然と感じていたことを見事に表現されています。
拙著『漁業権とはなにか』でも強調していますが、運動は、権利者たちが自らの持つ権利を自覚して、それに基づいて闘うようなスタイルでなければ勝てないと思います。実際、私は、これまで主としてそのスタイルで、約20例余りの埋立・ダム・原発を止めてきました(詳しくは『漁業権とはなにか』参照)。

権利者の自覚や主体性を促すのでなく、「私が指導してあげる」としゃしゃり出てくるようなリーダーは、所詮、自分の私利私欲に根差しているとみて間違いないと思います。彼らは、権利が侵害されようが、運動が負けようが、どうでもいいのです。彼らがリーダーシップをとったというお手柄だけが欲しいのです。ですから、権利者が「指導者」への依存を脱し、自らの権利に基づいて闘おうとすると、自分のリーダーシップが脅かされるため、「最後のデモ」などを企画したり、勝つつもりも勝つはずもない訴訟を起こしたりして運動の収束を図るのです。このように整理すると「署名捺印してもいい」とか「撤回書集めの文章を削れ」などと言った中澤氏の行動がよくわかるでしょう。

この問題は、日本の革新運動や住民運動全般に共通の問題だと思います。要するに、運動が、当事者自身を主体とするのでなく、「指導者」の手柄争いに利用されてているということです。もうそろそろ、この問題に気づいて、権利者が主体となる方向に切替えていかなければ、日本の革新運動・住民運動は、いつまでも負け続けることになるでしょう。
私は、1976年以来、40年以上住民運動のサポートを続けてきましたが、最も厄介で苦労させられたのは、いつも、相手との闘いではなく、「味方」の中の「指導者」の存在でした。どこでも「指導者」は、権利者自身が運動の主体となることを嫌がるからです。そもそも左翼でよく使われる「前衛」という言葉・意識自体が、「指導者」の傲慢さを示していると思います。

畏友からのメールは、この「指導者」、「前衛」の問題を鋭く突いておられます。
メールをいただいて、すぐに電話しましたが、「ヒラメ」には「赤ヒラメ」も居るとの名言に感心しました。「ヒラメ裁判官」は周知の言葉ですが、いわゆる左翼の中にも、党派の中で上を向いてばかりいる「ヒラメ」が居るという意味です。あのオウム真理教の中でも尊師等の称号をめぐって出世争いが起きていたのですから、よくわかりますし、例を挙げなくても、どの組織にもみられることです。

しかし、タイトルにある「金言」とは、メールの文章でも「赤ヒラメ」でもありません。畏友は、これだけ中澤氏を酷評されながらも、「いま批判を受けることが中澤氏の為になる。成長につながる」と言われたのでした。さすがは畏友です。とてもそこまで思いが及びませんでした。敬意を表しつつ、私も見習いたいと思います。
実際、中澤氏は優秀な人です。その優秀さを「赤ヒラメ」の方向ではなく、人に貢献する方向で活かされれば、将来とてもいい仕事をされるようになると思います。
その方向でのご健闘を祈ります。